ペットの飼育放棄は、日本社会において深刻な問題として広がっています。
これは単なる「動物が捨てられる」という話ではなく、
複数の要因が絡み合った複雑な社会問題です。
私のこれまでの経験を通じて、
飼育放棄の現場で見てきた現実を、
業界歴15年の私だから伝えられること、犬しつけ専門家/ドッグトレーナーとして考える解決策をお伝えしたいと思います。
目次
飼育放棄の現場から見える課題
ペットの飼育放棄の現場を訪れると、
無数の動物たちが新たな飼い主を待つ保護施設自体が満杯の状態であることもあります。
(全ての施設様がそうではないです。優良に動物を管理している施設様の方が多いと感じます。)
動物愛護団体や保護施設のスタッフは、
場所によっては、過酷な環境の中で捨てられたペットたちの世話をしており、
その多くは精神的にも肉体的にも疲弊していることがあります。
彼らスタッフの話を聞くと、飼い主がペットを放棄する理由はさまざまですが、特に目立つのは以下の点です。
1. 経済的負担
飼い主の多くが、ペットの飼育に伴う費用を過小評価していることがあります。
ペットの医療費は特に大きな負担となり、治療が必要な場合には、数十万円単位の出費が求められることも珍しくありません。
(実際、私自身が飼育していたゴールデン・レトリーバーもガンの治療で50万円程の治療費がかかりました。)
こうした高額な医療費に対処できない飼い主が、結果としてペットを手放す事態に至ることが少なくありません。
また、ペットの食事代も経済的に負担となっているのは事実です。
(実際ウチのゴールデンレトリーバーは1ヶ月の食費だけで1万円〜1.5万円ほどかかっています。)
それに加えて、ペットシーツ代やワクチン接種費用などの固定費もかかってきます。
2.しつけ不足による問題行動
ペットを迎える際に、しつけの重要性を十分に理解せずに飼い始めた結果、問題行動が生じるケースも多いとのことです。
引用
資料によると飼育放棄の原因の2割ほどがペットの問題行動になります。
吠え続ける、家具を壊す、攻撃的になるなどの行動に対処できず、飼い主がペットを手放してしまう(飼いきれない)ということです。
特に子犬や子猫の頃に適切なしつけを受けていない動物は、成長するにつれて行動問題を起こしやすくなります。
私自身犬のしつけ教室を経営していて、お客様は皆さま犬の問題行動で悩まれているのを実感します。
そして、そのお悩みは多岐に渡り、深刻化していることが多くあります。
放棄の理由は、「飼い主の死亡・病気・入院」の26.3%が最も多く、次いで「犬の問題行動」20.8%、「飼い主の引っ越し」15.4%、「犬の病気・痴呆・高齢」14.4%などが続いた。特に「飼い主の死亡・病気・入院」は近年増加傾向にあるという。放棄する人の年代は、60代が31.5%、70代が24.8%で、60代以上が実に56.3%と多い(画像1)。
【画像1】飼育放棄の理由と年代別の割合(出典:動物臨床医学会発表資料「犬の飼育放棄問題に関する調査から考察した飼育放棄の背景と対策」)
3.ライフスタイルの変化
転職、結婚、出産、引っ越しなど、飼い主のライフスタイルが大きく変わると、ペットを飼い続けることが難しくなるケースがあります。
特に、ペット可の賃貸物件が限られている都市部では、引っ越しを機にペットを手放すケースが多く見られます。
また、出産や子育てに集中するために、ペットを手放す決断をする家族も存在します。
実際ウチでも里親探しのサービスも運営していますが、ご相談いただくのは「ライフスタイルの変化でやむを得ず…。」ということも往々にしてあります。
犬しつけ専門家/ドッグトレーナーとして考える現状
私が直接訪問した保護施設の方にお話を伺った際は、「飼育放棄された動物が健康問題を抱えており、特に高齢の犬や猫は新しい飼い主が見つかりにくいという現実がある。」とその方はおっしゃっていました。
ある保護施設のスタッフは、「捨てられる動物たちは年々増加しているが、それに対する公的支援は追いついていない」と嘆いていました。
また、保護されたペットの中には、繁殖業者から放棄されたものも多く含まれているとのことです。
繁殖業者が経済的な理由から繁殖を続けることができなくなり、飼いきれなくなった動物を捨てるケースが増加している場合です。
これはペット業界の規制不足が背景にあり、無計画な繁殖や過剰な販売が問題を悪化させていると考えています。
また、犬の繁殖や犬を飼育することに対して「より高いハードル」や「免許制度」などの対処も有効だと考えています。
犬しつけ専門家/ドッグトレーナーが考える解決策:根本から問題を解決するために
飼育放棄の問題を解決するためには、表面的な対策だけでなく、根本的な改革が必要です。
ここでは、私が考える具体的な解決策を提示します。
1. 飼い主教育の強化と義務化
ペットを飼う前に、飼い主候補が適切な教育を受けることを義務化していけると飼育放棄という問題にも効果的にアプローチできると思います。
ペットのライフサイクル、しつけ、健康管理、経済的負担についての知識を学ぶ機会を設けることで、無責任な飼育放棄を防ぐことができます。
また、ペットショップやブリーダーは、ペットを販売する際にこの教育プログラムの受講証明を確認することを義務付けることです。
2. ペット保険の普及と補助金制度の導入
高額な医療費が飼育放棄の原因となることを防ぐために、ペット保険の普及を促進する必要があります。
さらに、低所得者向けに医療費補助制度を導入し、経済的な理由でペットを手放すことがないように支援することが求められます。
3.ペットの里親制度の拡充
飼育放棄されたペットが新しい家庭に迎えられるよう、里親制度の拡充と啓発が必要です。
特に高齢動物や障害を持つ動物が新たな飼い主に出会うための支援プログラムを導入することが有効だと思います。
また、里親になる際のサポートや教育も充実させ、飼い主がしつけやケアに困らないようにするべきです。
4.ペット業界の規制強化と透明性の向上
ペット業界に対する規制を強化し、繁殖業者やペットショップの活動を監視する体制を整える必要があります。
無責任な繁殖を防ぎ、適切な環境で育てられたペットのみが市場に出回るようにすることで、飼育放棄を減らすことができます。
また、ペット購入時にはその個体の出自や健康状態を開示することを義務付けるべきです。
私たちが取るべき行動
ペットの飼育放棄は、社会全体で取り組むべき深刻な問題です。
個々の飼い主がその責任を果たすことはもちろんのこと、業界全体の意識改革と政府の積極的な介入が不可欠です。
ペットを飼うということは、喜びと共に大きな責任を伴う行為であることを、私たち一人ひとりが再認識する必要があります。
そして、飼育放棄の背景にある問題を理解し、それに対処するための具体的な行動を起こすことが、ペットと人間が共に幸せに暮らす社会を築くための第一歩となっていくと確信しています。